カレの事情とカノジョの理想


ようやく口唇が離れると、掴まれていた手首が解放された。


その瞬間、引っ叩いてやろうと手を振り上げる。ところが足に力が入らずに、バランスを崩してしまう。


「っ!?」

「っと、危ない」


不覚にも蓮沼くんの腕に支えられてしまい、ふたたび身体が密着する。

細身なのに、意外とたくましい腕の中で、なぜかドキドキした。



「そんなに感じちゃった? 美春チャン、可愛い反応するね」

「離してってば……!」

「美春チャンじゃない? 離れられないのは」

「なっ……!」


ニヤリと笑った蓮沼くんは、私の腰に手を回すと、片手で身体を支えながら、首筋に口唇を滑らせた。


「っ、やだっ……っ!」

「大声出したら、みんなに見られちゃうよ?」


抵抗したいけど、身体に力が入らない。


悔しい……!


なんとか意識を保とうと、口唇をギュッ噛み締めた。


こんなヤツに、好きになんてさせないんだから……っ。


そう思った時だった。


「あー……そんなに噛んだら血ィ出るじゃん」


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