冷たい壁の感覚、私に触れる彼の体温の温かさ。そして、……重ねられる唇。


「……っ、ふっ」


それはいつもの優しいキスではなく、深くて私を食べつくそうとするように激しい。

膝から力が抜けて、崩れそうになった私を支えるように、彼は抱きしめる腕の力を強くした。


やがてゆっくりと唇が離れる。

私は泣いていたらしい。
彼の指が目じりをそっと拭ってくれた。


「ごめん、びっくりした?」

「……はぁ、だって」


息も出来ないほどのキスなんて、初めてだった。


「あんまり可愛いから」


照れた顔でそういう浩介くんも、いつもよりなんだか色っぽい。
だけど何でこんなときにまで、私の頭には夏木くんがちらつくんだろう。

< 10 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop