さよなら

 やがて救急車の音が遠くなっていく。
私は、呼吸を整えてから本部席へと向かった。

周りの人は、私を見ては何かひそひそと話をしているようだ。

ゴール付近での騒動だったから見物人はたくさんいて、私たち三人の関係はきっとしばらく噂になるのだろう。


本部席はテントが二つあった。

主催者が冷静な声音で何かをアナウンスしている。そちらではないテントの奥のほうで、浩介くんが椅子に座って項垂れていた。頭からはタオルをかぶっている。

私が近づくと、彼の傍にいた人が首を振った。
渋い顔をしているのは『興奮させるな』って意味?


「……浩介くん」


私の声に、彼は体を震わせた。
ついさっき人を殴ったばかりの人が、まるで怯える小動物のようになっている。


「ちゃんと話をさせて。浩介くん」

「……何も……話すことなんかない」


小さな声が痛々しい。ここまで傷つけたのが自分かと思うと胸が痛くなる。
あなたはずっと私に優しかったのに。


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