ドメスティック・エマージェンシー
「婆さんが、やっぱり来ないかって」

「えっ」

前にもされた誘い。
しかし前よりも私は反応した。
檻に閉じ込められたライオンが抜け道を見つけた。

もうそれしかここから出る方法はないだろう。
お婆ちゃんはきっと二人を説得して、私を守ってくれるに違いない。

しかし……葵と、ゼロのことが頭を過ぎった。

ここにいて壊れないのは葵がこの街にいるからだ。
葵のいない街は、もしかしたら私を不安にさせ殺してしまうかもしれない。

それに、ゼロの誘いを放ってお婆ちゃんのとこへ……行けない。
私は変わってしまったのだ。

「ごめん……。考えさせて」

それなのに断りきれなかった。
抜け道が消えてしまうことを私は恐れた。
……変わってしまったくせに、まだ普通に戻りたいと望んでいる。

有馬は、わかった、と少し残念そうに呟いてから電話を切った。






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