ドメスティック・エマージェンシー
「これ、美味しいね」

中途半端に乾いた髪の毛をツンツン揺らしながら葵は野菜炒めを食べた。

犬みたいだ、と密かに微笑む。

ひとときの至福。
もしかしたら最後になるかもしれない至福を、私は肌で細胞で脳で感じた――


「葵」

「ん?」

呼びかけると、小さな声で答えてくれた。
その後に、お腹いっぱいだ、と笑う。
私も釣られて笑う。

葵に見せる最後の笑顔だろう。

「……葵」

私は真っ直ぐに葵を見据えた。
愛する人の服の色が、肌が、目や鼻の形をより鮮やかに映し、脳裏に残すために。

「葵、私ね……家族が、憎いよ。だから――」

葵が目を見開く。
その刹那、からくり人形のように顔を俯かせた。
首が取れるんじゃないか、と驚く程の勢いに息を呑む。

その後ろに一人の男。
もうちょっと優しくしても良かったんじゃないか、と男に抗議し睨み付けるとゼロは首をすくめた。






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