ドメスティック・エマージェンシー
私は家族に嫌われている。
そのことに気付いたのは有馬が野球を始め、強くなってきた頃からだつた。
もしかしたら生まれた瞬間からだったかもしれないが、とにかくそれまで私は普通に生きてきた。
普通に有馬と接してきたし、母も父も有馬ばかりを見ていなかったはずだ。
それがいつからかこんな風に落差が出来てしまった。


数十分車は走り続け、我が家へ辿りついた。
時刻は既に午後五時を過ぎていて空が紺色に染まりつつある。
家族が車から出て、私も出て、遠藤、と書かれた表札の奥にある伸びた木を一瞥した。
光を失って黒々と佇む大きくて細い木。
昔からこれが好きだった。


「江里子、荷物持って来いよ」


父に指示され、母がお土産を持つ横でみんなの下着や服を詰めた鞄を持って家に入った。
おもむろに鞄を置いてやかんでお湯を沸かす。
既にソファーで座っている有馬に母がお土産の袋を渡し、玄関へ向かった。
そういえば父がいないことに気付いた。


「おい、どこ行くんだよ」


「ご飯買いに行くのよ、あなた早く家に帰りたがってたから。すぐ戻るから、待ってなさい」


お菓子買ってこいよ、という有馬の言葉を聞いて母は家を出た。
エンジン音が聞こえ、やがて音は去っていく。





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