ドメスティック・エマージェンシー
しかし、葵は自分を落ち着けるように目を瞑った。
言葉を選んでる時の仕草だと最近気付いた。

睫毛が長い。
ジッと見つめていると目が合ってクスリと二人で笑んだ。

「そうだな、ギャップだろうな」

「ギャップ……?」

「いつもお前我慢してるだろ。だから、俺の前では……いや、せめて、自分の中だけでもいい、我慢を解いてやりたいって思ったんだ。そしたら、惚れてた」

照れ屋なはずの彼が躊躇うことなく述べた理由に私が赤面してしまった。
葵はしてやったりの笑みを浮かべ、そうして再び私の頭を撫でた。

「我慢しなきゃならない時もある。けど、感情は我慢しなくていい。感じきって、それを受け止めてやれ」

それと自分を過小評価しないこと。
最後にそう付け足して、少し怒気を含ませた言葉に私は驚いた。

もしかしたら[こんな私]という言葉に怒ったのかもしれない。
だけど私は事実を言っただけなのだ。

そう思いながらも、葵の言葉が喉の奥に、心臓に、心にストンと落ちていくのを感じた。






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