ドメスティック・エマージェンシー
その有馬と今の有馬が何故か重なる。
有馬の息すら聞こえないのに、有馬が溺れて苦しんで必死に生きようとしたあの姿を思い出せずにはいられない。

「……有馬」

呼び掛ける。
存外、私の声が震えていて驚いた。
今にも泣き出しそうな声。

私たちは、何という海を目の前にしてるのだろうか。

「有馬……高校のこと?」

核心を付くと、有馬の肩が微かに震えた。

ああ、やはり有馬は聞いていたのだと確信する。
さっきつなぎ合わせたピースを一つ一つ確かめるために、私は目を瞑った。

有馬は野球が出来なくなった。
有名校からの推薦は無くなっただろう。
野球一筋だった有馬に勉学に励めと両親が言わなかったのも原因の一つだ。

言えなかったのかもしれない、有馬は……それを言うと怒るとこがあったから。

何にせよ誰もこうなることなんて予想出来なかったのだ。

「俺の学力じゃあ……行くとこ、ねえ……」

押し殺すように呟いた言葉が、いつまでも私の頭の中に残った。







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