ドメスティック・エマージェンシー
それでも何とか理解してきた頭が、突如言葉を蘇らせた。
ここにもおらんか――。
どういう意味だろう。
思案し、男を観察した。


良く見れば真っ白な肌には張りがあり、私より三十センチも高い身長だが落ち着きは見られず、同じ年くらいに見えた。
真っ赤な唇が白い肌を際立たせ、逆に鮮やかに唇の血の気を浮き上がらせている。
綺麗だ、と思った。


答えが見つからないまま、そういえばここ最近通り魔による殺人が報道されていたことを思い出した。
彼は通り魔だろうか。
あるいは強盗……しかし、そんな切羽詰った理由には見えなかった。
むしろ悠長な、それでいてどこか狂気が宿っている。


ふと、脳内にすんなりと答えが滑り込んできた。
男はなにかを探している。
誰かを探している。
この行為には、意味がある。








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