ドメスティック・エマージェンシー
「憎いわ」

囁いたのに、思ったよりも私の声が響き驚いた。
冷たく、震えた声で露わになった憎悪。
加速していく憎しみに、途端に苦しくなる。

憎い、憎いわ、葵。
これだけは譲れない。
両親が、クラスメイトが、憎い。
殺したいと思う。
私を絶望の淵に追いやったのは、確かに彼等なのだ。

懇願するように、真っ直ぐに彼を見据える。
葵は目を細め、私の背中に左手を置いて自分の方へ引き寄せ、布団から右手を出した。

僅かに警戒心が走ると、頭に降りてきた葵独特の熱い手の温もり。
皮膚に、細胞に、葵の温もりが浸透し警戒心を溶かしていく。

気持ち良い。

ソッと目を瞑った。








< 71 / 212 >

この作品をシェア

pagetop