まほろば【現代編】
少年は、満足そうな笑みをこぼし空を見上げる。

しばらくそうやって佇んでいるとタッタッタッと静かな闇の中に軽やかな音が鳴り響いた。

少年が首をめぐらし音のするほうを見ると、一人の少女が笑顔を見せながら小走りで少年に近寄ってきた。

少年も、笑顔で少女を迎える。

そして、再び少年が顔を上げ夜空を見上げると、少女もつられるように空を仰いだ。

雲ひとつない空には、大きく輝くまあるいお月様。

清浄な気が満ちていく。

それは、神社だけにとどまらずどこまでもどこまで果てしなく続いていくように広がっていった。

少し敏感な人なら感じるだろう。

今までにない、暖かな想いが自分たちの胸のうちに生まれているのを。

すべての穢れを祓ってしまうような、清らかな月光に照らされながら、少女はチラリと少年の顔を見る。

そして、少年の肩に両手を置いてツッと背伸びをすると、その頬に口付けをし、囁いた。

「リュウ、お疲れ様」

少し驚いた表情を見せた少年だが、すぐに笑顔に変わると、少女の肩を抱きその体を引き寄せた。

「ハルカ」

少年に名を呼ばれ、少女が顔を上げた。

そして、二人の影が夜の闇に溶け込むように静かに重なる。

夜空の月は、二人を包み込むように柔らかく優しい光でいつまでも二人を照らしていた……。



まほろば【現代編】・完
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