若き店主と囚われの薔薇


彼は私の姿を見るなり、目を見開いた。

そして次の瞬間、気まずそうな顔をする。


ーー…知っていた、くせに。



どうしてそんな顔、するのよ。



「………っ!」

クエイトの顔は、見れなかった。

苦しくて仕方なくて、彼らに背を向けて走り出す。


「……ロジンカ!」


エルガの、声だった。

少ししてから、彼が追ってくるのに気づいたけれど、私は振り返らなかった。



…嘘よ。

こんなの、嘘。

絶対、嘘!


瞳からこぼれてくる涙が、悲しくて悔しくて、仕方がない。

真っ暗な森の中を、私はただひたすらに走り続けた。


…お願い。


誰か、これは夢だと言って。






聞かれた。

よりによって、ロジンカに。


何故、あそこにいたのか。

いつから、俺達の会話を聞いていたのか。



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