若き店主と囚われの薔薇


「…ロジンカ、」

「何よ。逃げたければ逃げればいいって、あなた言ってたじゃない!私はもう、これ以上生きてても意味がないの!このままこの森で、死んだって構わない!」


確かに、言った。

逃げる覚悟があるのなら、逃げればいいと。

けれど、今は違う。

今のロジンカは、違う。


「…今のお前は、ただ絶望に突き動かされているだけだ。そんな衝動的なもので、逃がしてたまるか」

「…どういう意味よ」

「俺が言っていたのは、死ぬ覚悟じゃない。ひとりで生き抜く覚悟だ。それがあるなら、逃げていいと言ったんだ」


俺の言葉に、ロジンカはひどく傷ついた顔をした。

そして震えた声で、「…そんなの、」と言う。


「無理よ。…そんな覚悟、この先だってできるわけ、ないじゃない」


…ロジンカ。

運命を導く石、インカローズの名を与えられた少女。

薔薇のように真っ赤な髪を振り乱して、少女は力なく俯いた。



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