若き店主と囚われの薔薇


ただ流されるままに、ここにいる。


そんな私に、店主であるエルガは、ひとつだけ役割を命じた。


『毎日昼過ぎになったら、近くの井戸へ行け。このバケツに水を汲んでこい』


最初は、何故私が、と思った。

彼が言うには、水のたくさん入ったバケツを持ってテントに戻るには、他の子供達ではまだ力が足りないから、らしいけれど。


実際に四日間、テントと井戸を往復すると、気づくことがあった。

まず、テントから井戸へ行くには、それなりに距離がある。

だからこそ疲れるのだが、私が井戸へ水を汲みに行っている間に、客が来ている場合があるのだ。

テントへ戻った頃には、客は既に帰っている。

できればあやしげな客には会いたくない私に、それは好都合だった。


店主のエルガに関しては、よくわからないひとだと思った。

子供達が懐いているのを見ると、優しい人間なのだと思う。

最も、ここの他にも存在するらしい奴隷屋の店主が、一般的にどのような人間なのかもわからない私には、比較のしようがないのだが。


< 34 / 172 >

この作品をシェア

pagetop