文学彼氏






朝の通学電車ほど
嫌なものはない。


窮屈で、空気が熱くて
何より人と人の距離が近い。


満員の車両を見るたび
何度ため息が溢れることか。




まばらの人のなか
自分の電車を待っていると


斜め前の高校生の一際
うるさい声が耳に入る。



「なあうざくね? 誰もお前の話なんか聞きたくねえっつーの」


「ぎゃははは!
長谷川ってマジ嫌われてるよな」


「俺アイツだけはマジで無理」



あまりにも騒がしい声に車両位置を変えようかと本を閉じたとき。



「あ、てかさ。
お前横田と同じクラスだよな?」


「横田? …あー、横田朔ね。おう」



思わぬ朔の名前にそのまま、本を開き読んでいる…フリ。


朔と同じ学校だったのか。

確かに制服のデザインが朔と同じだ。



「あいつなんか最近可愛くね? てかふつうに弄りがいがある」

「あー言われてみれば。つかお前最近しょっ中横田の髪の毛にちょっかいだしてんもんな」

「反応がね、なんかこうそそるっつーか、くるね」

「まあ分からなくねーな」


本の内容が頭に入ってこない。

浮かぶのはこの高校生男子が下心ありげに朔の髪にちょっかいを出す様子。


…線路に突き飛ばしてやろうかと思ったが寸前で理性が勝ちなんとか留まる。



とりあえず、朔に事情聴取するしか事はない。

ちょうど朔今日うち寄ってくって言ってたし。








< 65 / 78 >

この作品をシェア

pagetop