愛罪



 僕と喧嘩をしたら、瑠海はこうして父親の背中に隠れたりしただろうか。

 ふと、父親が生きている僕ら四人家族の姿を思い浮かべてしまった。



 その団欒を払うよう少しだけその場から離れると、手の中で震え続ける携帯に視線を落とす。

 着信は、あやめ警察署からだった。



「…はい」

「こんにちは、後藤です。そらくん、今お時間大丈夫ですか?」



 もちろん相手は後藤さんで、だけどひとつ違ったのは彼のその口振りだ。

 普段はこんなに、切羽詰まったように僕に語りかけることはまずない。

 伝わる焦りに満ちた感情に少し身構えながら、僕は意味もなく携帯を右手から左手へと持ちかえた。



「大丈夫です」

「すぐ詳しい調査にあたりたいので、お電話で失礼します。お母様と接触があったか、二条真依子さんのお兄様、良太さんの周辺や関係者をお調べしたところ、良太さんの主治医、そして担当ナースの二名が自殺していたことがわかりました」



 こんな経験は初めてだった。

 後藤さんの爽やかかつ真面目な声が、脳全体を揺らすように煩く木霊した。



 未だに父親の影に隠れて、ちらちらと僕の様子を窺う瑠海。

 目が合えば隠れて、また瞳を覗かせて、を繰り返す何とも愛らしい彼女が、何だかもの凄く遠くにいるような気がした。



 いや、実際は自分が泥の中へ放り投げられたような、うまく形容出来ぬ不快感が眉根を濃くさせる。



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