愛罪



 でも、僕は彼女にこう言った。



「どうもしなくていいんじゃない」



 決して突き放したわけではない。

 本当にそう思う。



 僕にもたくさんの言い分はあるけれど、これ以上彼女を苦しめ追い詰めるのは趣味じゃないし、何より僕も早く解放されたかった。

 聞きたいことは別に今すぐ知りたいわけでもないし、真依子が落ち着くのを首を長くして待とうと思う。



 今まで散々敵視して来た僕らだ、距離を縮めることくらい何てことない。

 少しずつ修復していければ、僕は彼女を逆恨みしたりはしない。



「…本当に言ってるの…?あたし、あなたを騙してたのよ…?」



 普段と代わり映えのしない僕の声色と内容にはっとこちらを見た彼女は、疑惑の眼差しで僕を見つめた。

 何がそんなに信じられないのかはわからないけど、僕だってただのお人好しではない。



「もちろん凄く腹立つし悲しいし、わけがわかんないけど、やっと本心が知れてよかったよ。僕は、真実を知るために君に会いに来たから。けど、許したわけじゃないよ」



 真面目に、だけど柔らかく、僕は真依子の濡れた瞳を見つめ返しながら伝えた。



 そう、許したわけじゃない。

 こんなこと考えたくはないけれど、首を吊っている母親を見つけた時点で警察に伝えてくれていれば、もしかしたら助かる命があったかもしれない。

 この理由が生まれるような事実があったということだけで、きっと僕は一生真依子を許せないと思う。



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