愛罪



「そらはまだ話してないだろうからどう返そうか迷ったのが肯定したのと同じだったみたいで、顔つきが母親の顔つきになってたから気づいたよって…やっぱり年配の方って凄いわね」



 何だか嬉しそうな彼女が無性に恋しくなって、ソファにあぐらをかいていた僕は片膝を立てて真依子にぎゅっと抱きついた。

 閉じ込めるように腕を回して、その肩に顎を乗せて言う。



「…ありがと」

「…ありがと?どうしたの?」

「どうもしてない。ただ、ありがとうって、言いたくなった」

「………変なの」



 本当に、可笑しかった。

 何も考えずに出たのが、よりによって感謝の言葉だったのだから。

 けれど、それ以上何も言わずにそうっと僕の背中に腕を置いた真依子の温もりを感じて、祖母を幸せにしてくれてありがとうと思った故の言葉だったのだと心が教えてくれた。



 やっぱり、結果的に僕は真依子に感謝しているのかもしれない。



 母親の死をキッカケに出会い、そしてひと時の運命を知り、人を本気で憎むことを覚え、同時に愛することも覚えた。

 ただただ毎日を精一杯に生きて、時には自分も世界も嫌になり、だけど前よりずっと人間らしくなれたのも、遡れば真依子との出会いが教えてくれたものばかりだった。



 彼女とは出会わず、母親がただ自殺をしていただけならば、真相は知りたくともここまで必死にならなかっただろうと思う。

 結局、僕はあの日から真依子の全てに惹かれていたのだ。



 きっと、結末がどうであれ、僕はこうして彼女を抱きしめていただろう。



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