愛罪



 そのキッカケがあろうことか僕だったようで、心当たりのない感謝をされて正直驚いた。

 彼が言うには、諦めずに突き進んで成功を手にした僕に勇気を貰ったとか何とか…。

 後藤さんの熱くストレートな言葉が仇となり、無性に恥ずかしくて後半は全く記憶にない。



 そのあと、永瀬さんと瑠海を交えて四人で食事をすることも何度かあったから、後藤さんから『結婚することになりました』と記号のない殺風景なメールが届いた日は、滅多に飲まないお酒を口にした。

 ただ単純に、凄く嬉しかった。



「花織ちゃん、綺麗だったね!」

「うん」



 瑠海と手を繋ぐ、夕暮れ時の帰り道。

 小学校一年生になった瑠海の手は、二年前より少し大きくなり、容姿も女性らしさと力強さを兼ね備えた。



 この二年は、本当に大変だった。

 それ以上に充実して幸せな時間ばかりだったけれど、今でも度々、彼女は突然涙を流すことがある。



 『ママに逢いたい』と。

 そのときの僕は、彼女が泣き止むまで声を掛けずに心を鬼にして瑠海にひとりの時間を与えた。



 あと何年続くかはわからないけれど、瑠海が完全に母親の死を受け取めることが出来るまで、僕は傍で彼女の涙を見ようと思う。

 昔はあれだけ拒んでいた瑠海の涙も、いい意味で見ることに慣れた。

 泣き始めた瞬間はやっぱり心臓が締め付けられるように痛むけれど、僕自身も成長しなければならない時期なんだと日々覚悟している。



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