憑モノ落トシ


『あのね、一人であのトイレに居ると、誰かが覗いてくるんだってさ』


昔、いじめられていて閉じ込められ、そのまま自殺した生徒が居る。
それ以来一人でそこのトイレに入ると、自分をいじめた相手じゃないかと見に来て、少しでも似ていると襲われる、という噂。


そんな話をしてきたのは、どこかで噂を聞いてきた日向君だった。



けれど実際、調べてみれば自殺した生徒は存在しない。
すべて誰かの作り出した架空の話だった。

話によっては自殺の方法が異なるし、いじめていたという生徒の特長も変わっている。

作られた話はどんどん変化して広められ、原型をとどめていない。



「ついてきて?」


そんな噂なのに、日向君が怖がるのには理由がある。


「……しょうがないな」


根も葉もなかった噂は、子供たちの力で存在を得た。


大勢に伝わっていくほど、存在は大きくなる。

面白がって幽霊の姿を醜く変えて話していくほど、形は歪になる。



最初には存在さえしていなかったであろう生徒は、今では噂通りにそこに居る。


そう、すべての特長を加えた姿で。

< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop