Sales Contract

深呼吸をして、通話ボタンを押した。


「千絵…?」


呼び出し音が数回鳴ると、心配そうなお姉ちゃんの声が聞こえた。

「あからさまにそんな声出さなくたっていいでしょ?」

「だって…あんたから電話なんて何かあったの?」


呆れた。
らしくないことは、するもんじゃないな。

「何もないから大丈夫。
それより、明日ってあいてる?」


「暇だけど…」


「じゃあ、そっち行ってもいい?
お姉ちゃんに会いたいって人がいるんだけど」


それを聞いて全て察したようだ。
声のトーンがいつも通りに戻った。

「秋本くんね?」

「あたり」

「わかった。千絵も来るんでしょ?」

「うん…一応そのつもり」

「わかった、楽しみにしてる」


その言葉で、今彼女が満面の笑みを浮かべていることは簡単に想像できた。


「じゃあまた明日」


そう言って一方的に電話を切った。


< 149 / 310 >

この作品をシェア

pagetop