寂しがり屋【TABOO】
寂しがり屋

「逢いたい」

突然のメールだった。

真夜中、ふと目覚めた枕元で点滅する携帯。

手に取って開いて、微睡んでいた意識が飛ぶ。

今さら何だろう。

そう思う反面で、気持ちがざわついていた。

隣では同棲中の恋人が、裸の肩を出して眠ってる。

毎晩のようにあたしを抱く恋人。

愛されてると言う実感は体だけではない。

しかし、あたしの親指は「いいよ」と返していた。


約束は二日後の夜、よく二人で行ったバーで飲む事になった。

恋人には“女子会”と言い訳した。

愛されてる実感は確かにある。

だけど正直、満たされてはいなかった。

何かが足りなかった。

その何かが何なのかは、よくわからない。

ただ、そんな心の隙間に滑り込むように届いた、元カレからのメール。

別れた原因は元カレの裏切り。

もしかして今夜もまた、誰かを裏切って、あたしと会うのかな。

そう考えたら、何だか少しおかしかった。

「いらっしゃいませ」

ウェイターの声に肩越しに何度も振り返っては、入り口を見た。

三度目で元カレが現れた。

優しい眼差しと、少し痩せた立ち姿がそこにあった。

「一体な~に?」

訊いたあたしに、元カレは黙っていつものカクテルを頼んだ。

グラスを口に運ぶ仕草が、妙に淫靡て、体が火照った。

「あたしが恋しくなった?」

冗談のつもりだったが素直に頷かれて、思わずライムを落とした。

どうしよう。

今夜、この元カレと踊りたい。

欲望が泡のように沸き立つ。

あたしはカクテルの中にライムを落とした。

泡が上がる。

まるで、あたしの欲望、そのままに。

今の恋人にはない、感じられない激しい欲望。

いつも抱いてくれるから、産み出されなかった欲望。

それこそか満たされなかった“何か”なのだとその時、わかった。

「場所、変えない?」

あたしから、誘った。


fin

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