キモチの欠片
「仕方ないでしょ。てか、小学校の時の運動会のリレーでうちのパパに負けて悔し涙を流した葵のお父さんが会社の社長だったなんて信じられない」
まさか、だよね。
パンフレットなんて入社前に見ただけだし、羽山なんて名字は珍しい訳じゃないし。
繋がってるなんて全く想像もしなかった。
「ま、そういうことだから。今は俺は一番下っぱの従業員だけど将来的には跡を継いで社長になる予定だからそん時はゆずを社長秘書兼社長夫人にしてやるよ」
上から目線でとんでもなく恐ろしい発言をする。
「な、そんなの……」
「もう二度とゆずを逃がすつもりはないから覚悟しといて」
そう言ってギュッと抱き締めてきた。
「ずっと傍にいろよ」
微かに聞こえた葵の甘い言葉に嬉しさが込み上げる。
あたしだって二度と離れたくないという想いを込め、葵の身体に腕を回した。
やっと見つけた運命の人。
あたしだけを一途に想ってくれて大切にしてくれる人がこんなにも身近にいたなんて。
あたしたちの関係はまだ始まったばかり。
この芽生えた愛しい気持ちを大切にしていきたい。
end.