キモチの欠片

「そういうお姉ちゃんはどうなの?」

「なにが?」

「好きな人とかいないの?」

自分のことばかり話したので、お姉ちゃんの近況も聞きたかったんだけど。

「私のことはどうでもいいの。今日は柚音のお祝いなんだから。朔ちゃん、野菜スティックちょうだい」

あたしの質問をスパッと切って話をすり替える。

お姉ちゃんは自分のことは何も話さない。
確か、二十歳ぐらいの頃に失恋してそれ以来、『恋なんてしない』と言っていた。
今もそうなのか気になっているんだけど、全然教えてくれない。
妹としては心配なんだけど、無理矢理聞き出すことでもないからなぁ。

隣できゅうりのスティックをディップソースにつけて食べているお姉ちゃんを見ていると、あたしの視線を感じたのかバチッと目が合った。

「ねぇ、せっかくだから葵を呼んだら?」

「え、別にいいよ」

いきなりそんなことを言われ、お姉ちゃんに怪訝な目を向ける。
もしかして酔ってんの?
顔を見る限りじゃ酔ってる感じはないんだけど。

「何でよ。おめでたい話をしてるのに、当事者がいないっていうのも寂しいじゃない」

「いやいや、ここにあたしがいるでしょ」

「だから、付き合っているならセットでいなきゃダメじゃない」

「えー、意味が分からない。あたしで充分じゃん」

口を尖らせる。
葵を呼んでもいいけど、一緒のところを見られるのはちょっと気恥ずかしい。
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