キモチの欠片

「どうした、柚音。さっきの電話は約束してた男関係か?」

「うん……」

力なく答える。
朔ちゃんはそうかと言って黙ってしまった。

あたしも自分の頭の中が整理できなくてこれ以上、なにを言えばいいのか分からない。
このまま居座っても、朔ちゃんの仕事の邪魔になりそうだ。

「今日はもう帰るね。お金は?」

ようやく声を絞り出しバッグの中から財布を出した。
朔ちゃんは急に帰ると言ったあたしに嫌な顔ひとつしない。

「お金はいいよ、そのジュースたいして飲んでないだろ。今日は奢ってやるよ」

「ありがと、朔ちゃん」

カウンターに手を付き椅子から降りてバッグを掴んだ。
背を向けたあたしに朔ちゃんが口を開く。


「柚音、さっきの話だが嫌なことから逃げてもなにも始まらない。相手に対しても失礼だろ。一度逃げて後悔しているんだったら後悔しないようにちゃんと向き合うんだ。社会人なんだから自分の行動にはきっちり責任を持て。柚音なら大丈夫だから。しっかりしろよ」

そう言ってカウンターの中から出てきて、あたしの頭をクシャリと撫でた。

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