【完】『潮騒物語』

慶は黙って聞いていた。

が、

「これは個人的な見解やけども」

と前置きした上で、

「おれは萌々子ちゃんがどんな洋服着てようが、別に気にならんけどな」

「でも男の人って、あちこち変に周りとかプライドあるからか気にするじゃん」

「それは東京の流儀やな、おれからすれば」

「そぉ?」

「大阪なんか、プライドもヘッタクレもないで。みんな好きな服着よる」

「それで大阪ってオバサンみんなヒョウ柄なのかな…」

「少なくとも個性的やし、可愛らしいし、似合ってるしでえぇと思うけどな」

見栄を張る彼氏さんの気持ちも分からんではないけど、と慶はいった。

「うーん」

「それか、誰か他に気になる人がおったら、バレンタイン近いし、当たってみるって手もあるで」

ちっちゃいアレンジメントぐらいなら予算内で作るで──と慶は、屈託なく笑った。

「そこで商売してくるあたりがお慶さんだよね」

「まあな、バレンタインはうちら花屋からすれば商機やもん」

「…お慶さん彼女は?」

「今はおらんで」

でも萌々子ちゃんから見ればオッサンやしな、と慶は笑うとベンチを立った。

「そろそろ江ノ電、来るんちゃうかな」

「…お慶さん、ありがと」

おぅ、と慶は軽く手をかざして後ろ姿で会釈した。



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