あの夏よりも、遠いところへ

寝起き姿のままだし、財布もスマホも置いていったんだ。どうせすぐに帰ってくるだろうとタカをくくっていた。

午後になったところでオカンが警察に行こうと言い出したけれど、オトンが止めた。あまり騒ぎすぎると逆に帰ってきづらいだろうってさ。

あしたは月曜で学校もあるし、どうせ夕食時になったら帰ってくる。あいつは、昔から家族みんなに甘やかされて育ってきたお姫様なんだ。家出なんて、できっこねえよ。


なのに、夕方になっても、夜になっても、スミレは帰ってこなかった。


「ちょっと、蓮。スミレのこと探してきてーな」

「俺?」

「スミレが出てったんは蓮のせいやろ。朝っぱらからやかましく喧嘩なんかして」


まあ、それは、俺も思うよ。けどあんなに怒ることねえじゃん。意味分かんねえ。


「きのうの夜、あの子ずっと起きとってんで。あんたが帰って来えへんからって。めっちゃお兄ちゃん子やねん、スミレは」

「そうか?」

「そうや。あんた、スミレになに言うたん?」

「なにって……」


別に、なにも言ってねえよな。あいつが訊いてきたことにちゃんと答えただけだ。ビンタをぶっかましたことは悪かったと思うけど、勝手なことを言うスミレだって悪かった。


「ええから早よ探してきて」

「……分かった」


心配だとは思うけど、俺が探し出して迎えに行ったって、意味ねえような気がする。また「死ね」って逃げられるだけなんじゃねえかな。

探すと言っても、あいつが行きそうなところ、全然分かんなかった。意外と俺はスミレのことなにも知らねえんだなって思った。情けねえ。

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