あの夏よりも、遠いところへ

どこでも桜は桃色なんだなあと、あたりまえのことを思った記憶がある。

あれは、たぶん中学3年に上がったとき。大阪に引っ越してきて迎えるはじめての春だった。


クラスには溶け込めなかった。だってみんな関西弁なんだもん。当然だけどさ。

標準語を恥じてはいないけど、特に話す必要もないかなって。そんな感じで、あれから2年半。


わたしは今年も、たぶんここの空気に馴染めないままなんだろう。



「――めっちゃオモロイ名前してんな、自分」


新学年、新学期、いちばん最初のホームルーム。わりとまだみんな緊張している教室の真ん中で、後ろから声を掛けられた。


「……は?」

「北野朝日て、めっちゃオモロイやん。朝日は東から昇るもんやのに」


そこまで大きな声ではなかったかもしれない。その台詞はたぶん、わたしにしか聞こえていない。

けれど、カッと顔が熱くなった。


「俺、清見蓮ていうねん。去年は5組やってんけど、北野サンは?」

「2組だけど」

「へえ」


自分から訊いておいてその薄い反応はなんなんだ。

関西人ってのはすごい。まるで世界中がみんな友達かのように、最初から馴れ馴れしく話しかけてくるんだ。すごい。

歩くのは速いし、よくしゃべるし、噂には聞いていたけど、強烈だ。
< 68 / 211 >

この作品をシェア

pagetop