春色エクディシス
◆What is not good?
“公共図書館の司書って楽そう”

ふいに、彼氏の言葉が浮かんだ。
社会人1年目を終える私達がそう交わしたのは、いつだろう。

返却図書用のカートを押しながら、息を吐く。

溜息じゃない。息切れだ。
重いカートを空にして、苦情に対応して、イベントを企画して、図書の修理もする。

司書も、楽ではない。

不満が顔に出たのか、真っ赤な参考書を開くいつもの彼が、ふっと微笑んだ。

さらっと流れた黒髪の奥で、くっきりとした目が細くなる。
上がった口角は、生意気にもその魅せ方を理解していて、彼を悪く言う人がゼロに近いことも簡単に想像できる。

捕まる。

目を逸らした私を見て、彼はまた口角を上げるだろう。
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