明日へのメモリー

 わたしの家は、曽祖父の代から不動産会社を経営している。

 オフィスビルの建設や投資用マンション分譲事業を営み、これまではそれなりにやっていた。

 わたしは東京郊外の家に住み、二代目社長の祖父と副社長の父、母、お手伝いさんに囲まれて育った。

 ところが、祖父が亡くなった頃から、世界不況で状況は一変した。

 地方で再開発したオフィスビルの分譲が完全に暗礁に乗り上げてしまい、会社は危機に陥った。

 事業の負債額は数十億に上っていたらしい。

 現状を知らされ、わたしと母は青ざめた。

 立て直しには多額の融資が必要だが、会社が信用不良状態の今、正規ルートでの資金調達は難しい。

 救済手段は唯一つ、一人娘であるわたしが、取引銀行頭取の息子との縁談を受けることだ、と父は言うのだ。


「お前より十歳年上だが、浮いた噂ひとつない。お前を大事にしてくれそうじゃないかね」


 差し出された写真には、神経質そうなやせた男性が写っていた。

 それを見たとき、わたしの中で十六歳の時から育んできた夢が、大きな音をたてて崩れていくような気がした。
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