明日へのメモリー

 そんな関係が、大学に入学した今年の春まで続いた……。

 最後に樹さんに会ったのは、五月雨が降る夜。

 しばらく前から入院していた祖父が、とうとう他界したときだった。


 九重ホールディングスからなぜか告別式場に大輪の白菊の花輪が届き、両親がひどく驚いていた。

 弔問《ちょうもん》に来てくれた樹さんと、大勢の人の間で立ち話をした。

 あの時、近々アメリカに行くと言っていた。今度は半年以上の長期になるかもしれないと……。

「本当にいい人だった……。俺も好きだったな」

 別れ際、懐かしむように祖父の遺影を見てつぶやくと、優しく言った。

「元気出せよ。何かあったら、いつでも俺にメールしてこい。電話でもいいぞ」

 気遣ってくれてるのよね、ありがとう……。わたしは力なく微笑み返した。

 無理しなくてもいいよ。

 この恋から、もう卒業しなくちゃいけないって、わかってるから。

 でも、伝える勇気が出なかった。その時は……。

< 26 / 71 >

この作品をシェア

pagetop