明日へのメモリー

「きゃっ!」

 小さく叫んで立ち上がった。服は無事だったものの、ムードが台無しだ。

 焦って謝るわたしの前で、マスターが手際よく片付け、笑顔で新しいグラスに代えてくれる。樹さんは声を殺して笑っていた。

「やっと大人になったかと思ったら、まだまだお子様だな。まぁ、そうしょげるなって」

 元通り落ち着くと、彼がもう一度グラスを掲げた。

「美里の十九のバースディに、乾杯」



 そのまま、取り留めのない会話が続いた。

 そろそろ話さないと……。周りに人がほとんどいなくなり、さすがに焦ってきた。もう帰ると言われたらどうしよう。

 ふいに彼がグラスを置いた。

「なぁ、お前から見ると、俺ってまだオジサンか?」

 おかしな問いに、ぶっと吹き出した。緊張がほぐれる。

「そういうこと、聞くところが『オジサン』なのよね」

 彼も笑ってわたしを引き寄せた。腕に抱かれるような格好になり、はっとする間もなく、彼が顔を近付けてきた。

「目、閉じろって」

 囁かれ、慌ててつぶると、彼の唇がわたしを覆った。舌先に促され、かすかに唇を開くと、彼がすぐさま侵入してくる。
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