明日へのメモリー

 ようやくこぼれ出た言葉が、無言の壁にはじき返された。

 震える声で何とか続ける。

「あちらから急にいただいたお話で……。相手の人、うちの会社と長くお付き合いのあるTK銀行の頭取さんの息子さんなの……。き、昨日……お見合いして、来週、結納だって……。ほ、ほんと、突然来るよね、こういうことって!」

 だんだん声が高くなる。

 もしかしたら、これが運命の相手かも? と明るく笑いたかったのに、顔が引きつった。

 彼が大きく息を吸い込んだ。

 続く氷のような沈黙は痛いほどだった。楽しかった夜がすっかり台無しになった。

 一生懸命フォローの言葉を捜したけれど、何も浮かばない。

 そのまま、すくんだようにただじっとしていた。


   ***  ***  ***


 マスターに閉店を告げられ、わたし達はようやく身動きした。

 まだ言い残したことがある。今、全部言ってしまわなくちゃ。

 やっと気付いたように、短くなった煙草を灰皿に押し付ける彼を見ながら、一生懸命続けた。


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