明日へのメモリー

 絨毯の敷かれたホテル最上階。エレベーターに向かって足早に歩く彼について、小走りに駆けていった。

 角で急に足がもつれ、がくんと膝を付いてしまう。


 これで終わりなんて、いや! 
 こんなの、最悪だ……。


 両手で顔を覆い、嗚咽《おえつ》していると、いつの間にか戻ってきた彼がわたしの前に立っていた。

 腕を引っ張られ、ふらふらと立ち上がる。

 急に力いっぱい抱き締められた。


 やっぱり大好き!

 乱暴な抱擁の中、すすり泣いているわたしに、彼がはき捨てるように言った。

「都合のいい相手ができたら、さっさと乗り換えるのか? 俺達の関係はその程度だったわけか? 俺はそんなつもりで、お前のままごとに付き合って来た訳じゃないぞ!」

 端正な顔が、まるで傷ついたように歪んでいる。

 その瞬間、わたしの中でずっと渦巻いていた渇望がほとばしった。


「お願い、樹さん! 一度でいいの。わたしを抱いて!」


 思い出が欲しい。ずっとずっと大好きだったあなたの思い出が……。

 それは、他の男性との結納を控えたわたしの、ただ一つの願いだった。

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