HAPPY CLOVER 4-学園祭に恋して-
 実は今朝、高梨さんをこっそりつかまえて、綾香先生の予言をさりげなく伝えてみた。

 もちろん綾香先生の名前は出さず、「ネットで調べてみた」ということにしたのだけど、10日後という具体的な日数が、高梨さんの不安を軽減するのに効果てきめんだったと思う。

 というのも生理周期が乱れたことのない高梨さんにとって、前回から30日以上経っても生理が来ないという状況は、まさに緊急異常事態。ありえないことが起こっているのだから、高梨さんの考えが悪い方向へまっしぐらなのは当然だと言える。

 だから「規則正しい人でも10日くらい遅れることはある」と言ったら、彼女は「え、そうなの?」と驚いていた。

「そんなことって本当にあるの?」

「いや、これは私の姉の話ですが、最初の生理が来てから半年間なにもなく、その後も高校を卒業するまでかなり不定期だったみたいです。むしろ高梨さんのようにまったく乱れたことがないという人は少ないのでは?」

「……そういうもん?」

 高梨さんは疑うように首を傾げたが、目は楽しそうに笑っていた。そういう明るい表情の高梨さんを久しぶりに見た気がして、私はとても嬉しくなったのだ。



 そんな回想をしている間に、綾香先生は隣の本棚へ移動していた。しばらくすると手を伸ばしてくすんだ色の表紙を引っ張り出す。

 私は綾香先生がどんな本を選んだのか、とても気になった。悟られないようにこっそりと横目で先生が手にした本を確かめる。

 ――ん?

 真正面の日本文学の棚を見つめながら、そういえば隣の棚は背表紙を吟味することさえ躊躇してしまう品揃えだったことを思い出す。

 ――私の記憶が正しければ、あそこには魔法とか、なんとかの謎とか、興味深いけど読んでいるのを他人に見られたくないような本ばかり並んでいたはず。

 そうなのだ。綾香先生が手に取った本のタイトルには「古代文字」とか「謎」という漢字がデカデカと書かれていた。

 そして綾香先生は茫然としている私に気がつく様子もなく、真面目な顔でパラパラと本をめくっている。

「うーん」

 小さな唸り声が聞こえてきたかと思うと、古代文字の本は本棚に戻され、次もまた妖しげな表紙の本が先生の手の中におさまる。

 今度は「世界」と「魔術」という文字が見えた。

 妙に心臓がドキドキしてきて、いてもたってもいられない気分だ。誰かがここを通りかかったらどうしよう。

 ――先生。お願いだから、もう少し無難な本に興味を持ってください!

 もうほとんど祈るような気持ちだった。

 私のせつなる願いに呼応するように、救いの予鈴が鳴る。

 綾香先生は慌てて本を戻すと急ぎ足で図書室を出て行った。私もホッとしながら出口へ向かう。

 あの桜庭さんとかいう1年女子は、さすがにもう立ち去っただろう。それでも教室に戻るのがおっくうに感じられた。

 それに昼休みが終わって、放課後が近づいてくるのが憂鬱で仕方がない。学園祭なんて早く終わってしまえ、と心の中で叫んでみたが、当然のことながら、どこからもなんの反応も返ってはこなかった。

< 17 / 35 >

この作品をシェア

pagetop