HAPPY CLOVER 4-学園祭に恋して-
 ほとんど騒音に近いロックを背にして、俺たちは体育館を出た。それから「しろくま食堂」に向かい、人目を避けるように窓際の席に座る。

 他人になにを言われても、俺は気にしない。
 
 だけど面倒なことに巻き込まれて、舞とふたりで過ごす時間がぶち壊されるのは嫌だ。

 そもそも他人の存在が邪魔だった。舞を連れて月まで飛んでいけるなら、俺は他のすべてを捨ててもかまわないとさえ思う。とにかく俺たちにはもっと時間が必要なんだ。

 しかし現実はそう簡単に俺の願いを叶えてくれない。

 舞が月見うどんを食べ終えたので食堂を後にした。残り時間を気にしながら美術部と書道部の合同展示室を回り、お化け屋敷の手前で「じゃあ」と切り出す。

「後夜祭が終わったら、駅まで送る」

「うん」

「受付の仕事、頑張って」

 舞は小さく頷いた。本当は受付ではなく、幽霊の役をやりたかったと言っていたが、髪の長い女子限定だったため、おかっぱの舞は立候補できなかったのだ。

 まぁ、幽霊も似合っていたかもしれない。でも舞が眼鏡を外して、顔を白く塗ったら、なまめかしすぎる。お化け屋敷に入る客は女性ばかりではないのだ。

 それに他校の生徒の姿も多くなってきた。ヤツらは少しでも好みの異性を見つけるため、目を皿のようにしている。もし他校の男子に声をかけられたとしても、舞はまず相手にしないだろうが、俺はいい気分がしない。

 そういうことを言い出すと、受付だってやらせたくないけど。

 でも受付は女子ふたりで担当しているし、必ず周囲にクラスのヤツがついている。暗闇の中、ひとりで幽霊役をやらせるよりは安心だ。

 俺はお化け屋敷へ戻る舞の背中を見送りながら、舞のことになると、まるで父親のように心配性になってしまう自分に、心の中で苦笑した。
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