恋するキミの、愛しい秘めごと
初めて入る榊原さんの寝室の窓からは、大きな月と工業団地の明かりが見えた。
「……んっ」
濡れた髪に落とされた榊原さんの唇が、ベッドに横になる私の唇に。
体に巻き付けていたバスタオルを静かに開いて、唇から頬、そのまま首筋を伝って鎖骨にそっと触れる。
そこでチュッと音を立てて、ゆっくり体を起こすと、彼はその茶色い目を細めてクスッと笑った。
「キス1回って言ったのに、ごめんね」
月明かりに照らされた彼の顔は、今まで見たことのない榊原さんの“男の顔”。
掠れた声には不似合いなセリフに笑うと、「やっと笑った」と今度は咬むようなキスで唇を塞がれ、開いた口から小さな吐息が漏れた。
榊原さんがこんなキスをするなんて、知らなかった。
「あ……やっ」
私の反応を探りながら、ゆっくりと肌を滑っていく彼の手が、こんなに熱いことだって知らなかった。
「やっぱり可愛い」
苦しそうに呼吸を震わせる私の額に優しくキスをして、フッと熱い息を漏らす。
「可愛い」、「可愛い」。
一体何回その言葉を、柔らかい声で囁かれたのか……。
私を抱く榊原さんからは、確かに“愛情”を感じていたはずなのに。
――それなのに。
「榊原、さん……っ、あっ」
「“ハヤト”って、呼んで……」
「ハ…ヤト……、ン――隼人、もうダメ――」
「いいよ、一緒に気持ち良くなろ」
「――っ」
私は、何も知らなかった。
「あ……っ、はぁ……」
「日和、大好きだよ」
「――ん」
自分が大切に思っていた物が、何だったのかなんて、
見つめていた物が、何だったのかなんて――……。
私は本当に、何もわかっていなかったんだ。