恋するキミの、愛しい秘めごと
――え?
「……離すぞ?」
その声にコクコクとうなずくと、大きな手がゆっくりと離される。
「カン……ちゃん?」
「はい、カンちゃんですが」
「なんで?」
半裸男の正体は、数年前までいつも一緒にいたイトコ。
そこまでは理解出来た。
だけど、どうして“私の家”にその人がいて、しかも勝手にシャワーなんて浴びちゃっているのかがわからない。
頭がこんがらがって、眩暈を起こしそうな私の前でカンちゃんは呑気にデッカいクシャミをひとつして。
「とりあえず、服着ていい?」と、むしろお願いしたい言葉を口にすると、廊下の右側の扉を開けて中に入って行ってしまった。
その場に取り残された私の体からは、ほのかにカンちゃんのシャンプーだかボディーソープだかの香りがする。
「……」
自分の体に残る、カンちゃんの熱い手の感触。
不覚にもそれに“男”を感じた自分が悔しい。
だって、相手はあのカンちゃんだよ?
いつも人のことを「ヒヨコ」とか「ひよこ豆」とかバカにして、高校生の頃なんて、人のシュシュで前髪をちょんまげ結びしていた男だよ?
その時の様子を思い出して少し冷静になった私の視界に、黒のスウェットを着たカンちゃんが映り込み、その黒目がちな瞳が私に向けられる。
「ヒヨ、ひとまずリビングに……って、顔赤いけど」
「はい?」
「風邪か? 頼むからうつすなよ? 来週大事なプレゼンあんだから」
ブツブツ言いながら、奥の部屋に向かう彼の背中を追いかけて……。
「何これ」
その扉をくぐった私は、ポカンとしながらそう呟いた。
だって、目の前に広がる20畳以上はあるであろう部屋には、明らかに“人が暮らしている空間”が広がっている。
ピカピカのアイランドキッチンのシンクには、洗われていない食器が放置され、ダイニングテーブルやソファーの上、その前にあるローテーブルには読みかけの新聞や雑誌が無造作に置かれていた。
それを呆然と見つめる私に「最近忙しくて掃除サボってたの」と、そうじゃなくてとツッコミたくなる一言を放つカンちゃん。
私が聞きたいのは、そういうことじゃなくて。
「どうして私の部屋に、カンちゃんがいるの? てゆーか、ここに誰か住んでるの?」
やっと開くことが出来た口で質問をすると、目の前のその人は、
「ここ、しばらく前から俺が住んでるんだけど」
“何言ってんだ?”と言わんばかりに眉根を寄せて、そう答えた。