恋するキミの、愛しい秘めごと


まだ植えられたばかりの芝生の真ん中を突っ切るように、真っ直ぐ伸びる石畳を歩き、ライトアップされた建物の横を通り抜ける。


「カ、カンちゃん? どこに行くの?」

石畳から逸れたそこは、少し足場の悪い土の上。

そこをヒールで歩く私に気が付いて、前を歩くカンちゃんが手を差し伸べてくれた。


「……すっかりイギリス人になっちゃったんですね」

「何だそれ」

その手を握りながら、照れ隠しに口にした言葉を聞いて、カンちゃんが楽しそうに笑う。

だけどこっちは、わけが分からなくてそれどころじゃないんだから。


さっきから、心臓が痛くなったり、ドキドキしたり……。

ここ数時間で、自分の寿命が縮まっている気がしてならない。


そんな私の心配を余所に、どんどん歩みを進めるカンちゃんは、博物館の入り口の真横辺りにある扉の前で立ち止まり、胸ポケットからカードを取り出した。

それをドアの横の機械に通すと、暗闇に“ピー”という電子音と、カチャリとカギの開く音が響く。


「よし、行きますか」

そのまま鉄のドアに手をかけ強く引き開けたその先には、薄暗い廊下が伸びていた。

先にそこに足を踏み入れたカンちゃんが、右手の小さな窓口に向かって英語で何かを話しかけると、中から紺色の制服を着たお腹の大きなおじさんが顔を覗かせる。


そして「I'm Bob」と自己紹介をした後、私をジッと見つめて――「Come on in!」と、親指で先に続く廊下を指しながら、ニヤリと笑った。


一体何が起きているのか……。

やっぱり状況が理解できないまま、どうやら守衛だったらしい“ボブ”にたどたどしくお礼を言って、さっさと歩き出したカンちゃんの後を追った。

< 210 / 249 >

この作品をシェア

pagetop