恋するキミの、愛しい秘めごと


「あれ? 南場さん?」

背後からそう声をかけられたのは、取引先に届け物をした帰りの道でのことだった。

「……あ」

振り返った先にいた男の人に、一瞬戸惑う。

「今日はひとり?」

「はい」

私の返事に「そっか」と微笑むのは、あの競合プレゼン以来の榊原さんだった。


「仕事中……だよね?」

私が手に持つ書類封筒を、ヒョイっと覗き込む茶色い瞳はまん丸で、失礼かもしれないけれど、可愛らしいその表情は年上とは思えない。

確かカンちゃんの二期上って言ってたよね?

てことは、少なくとも32歳は超えているはず。


「はい。取引先からの帰りで……。榊原さんもお仕事中ですか?」

「うん。人使いの荒い先輩に、外出ついでにお使いを頼まれてね」

いたずらっ子のように笑う彼の手には、コンビニの袋が下げられていて、透ける中身につい首を傾げる。

透けているのは、金色のボトルに“ウコン”という文字がデカデカと書かれた有名なお酒のお供。

「……どなたか、二日酔いなんですか?」

予想外な中身に思わず突っ込んでしまってハッとする私に、榊原さんは「今日飲み会なんだ。ぺーぺーだから、お酌してばっかだけど」と肩をすくめた。


何だか本当に可愛らしい人だ。

あまり高くない身長と、顔付きが犬系のせいもあるんだろうけど、仕草というか、動きがそれを助長している気がする。

つられて笑う私を見る薄茶色の瞳は、すごく優し気で、色々あったとはいえ、本当によく面倒を見てもらっていたとカンちゃんが言っていたのを思い出した。


「今日宮野は? 別の仕事?」

「はい。宮野さん、売れっ子なので」

「だろうなー。この間のも、すっかり持ってかれたもんな」

「あー……。すみません」

榊原さんが話している“この間の”というのは、先日の競合プレゼンの話。

「南場さんが謝ることじゃないよ。でもまさか5フロア持っていかれるとは思わなかった」

私達も、昨日届いた結果を見て正直驚いた。

「3フロア獲れてたらいい方」というカンちゃんの予想に反して、H・F・Rが獲得したのは7フロア中5フロア。

部長をはじめ、他の同僚達もすごく喜んでくれたけれど、カンちゃんはひとり浮かない顔をしていた。


きっとまだ、あの日の自分を許せていないんだろうな……。

思いつめたように、送られてきた書類に視線を落とすカンちゃんを思い出して、胸に小さな痛みが走った時だった。

「あ、南場さんもうお昼って食べちゃった?」

何かを思いついたように声をかけられ、いつの間にか足元に向いていた視線を上げる。

「いえ、まだですが……」

ちょうどお昼時だし、会社に戻る途中で何かを食べて帰ろうと思っていたところだった。

そんな私に、榊原さんはニッコリ笑い言ったんだ。

「じゃーさ、ちょっと付き合って貰えないかな?」

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