恋するキミの、愛しい秘めごと
そんな事を考える私に、榊原さんはクスッと笑って言ったんだ。
「その人のことが好きなんだ」
「……お兄ちゃんですよ? そんなはずないじゃないですか」
「そう? じゃー、それを勝手に好きな人だったと仮定して話すけど。そしたら、出来る事は2パターンしかないと思わない?」
「……」
「想い続けるか、諦めるか。その2パターンしかない」
――“想い続けるか、諦めるか”
「こんな風に言うと凄く単純にも思えるけど、実際はそう簡単に割り切れないのが恋ってやつなのかもしれないけどね」
瞳を伏せて小さく笑う榊原さんの横顔を眺めていたら、もしかしたら榊原さんにも好きな人がいるのかもしれないと思った。
「諦めたら、その人とはどうやって接すればいいんでしょうね……。傍にいたら、また好きになってしまう気がして」
今までだってそうだった。
忘れないとと頑張るのに、結局一番近くにいるのはカンちゃんで、彼から心を離すだけの強さもきっかけもないんだ。
そんな私に榊原さんは目を細め、「ほら、やっぱり好きなんじゃん」と笑ったあと……。
「好きになりすぎた時の恋愛ってさ、雛鳥《ひなどり》の刷り込みみたいだよね」と天井を見上げながら呟いた。
「雛鳥、ですか?」
「そう。“この人だ!”って思ったら、もう他に目がいかなくなっちゃって」
それは……。
わかるような、わからないような。
思わず眉根を寄せた私に、榊原さんはまた笑いながら口を開く。
「本当に忘れるべき相手なら、自然に忘れられる日がくるんじゃない?」
「……」
「だってそうでしょ? 相手にその気がなかったら、必ずいつかは諦めざるを得ない」
「そうですね」
「だけど、相手がいつか振り向いてくれたら、それは“忘れちゃいけない相手”だったってことで」
何かそれって……。
「それに期待しちゃうから、諦められないんじゃ……」
「まぁ、そうなんだけど。でも、自分がお爺ちゃんとかお婆ちゃんになるまで期待し続ける人っていないと思わない?」
「そう、ですね」
納得がいくような、いかないような榊原さんの話に微妙な反応をすると「南場さんって素直だよね」とクスクス笑われて。
「雛鳥だって、いつかは親から離れられるし。つまりは、時間があるなら焦らなくてもいいんじゃない?――って事」
次に告げられたその言葉が、スッと気持ちを楽にしてくれた気がした。
ここにきて、いつの間にか“早く答えを出さないと”と焦っていた自分に気が付くなんて。
自分の事が見えなくなっていた自分に驚いた。
「……そういうものですかね」
「うん。まぁ、その分苦しい事もあるかもしれないけど、無理やり自分の気持ちを押し曲げるよりはいい気がする」
「そっか……」
――答えというものは、自ずと出てくる。
確かに、榊原さんの言う通りなのかもしれない。