恋するキミの、愛しい秘めごと

家に帰ると、玄関から見えるリビングの電気が点いていた。

カンちゃん……だよね。

電話であんな態度を取ってしまった手前、顔を合わせるのがちょっと気まずい。

だって、あれはどう考えても八つ当たりだもん。

カンちゃんは自分の気持ちをただ素直に話してくれただけなのに……。

全面的に私が悪いんだから、まずは謝らないと。

リビングのドアの前で立ち止まり、ノブに手をかけた所で息を大きく吐き出す。


“あんな嫌な言い方しちゃってごめんなさい”――素直にそう謝ろう。


「……よし!」

気合いをいれてドアを押し開け、中をそっと覗き込んでカンちゃんの姿を捜す。


――あれ?

居るだろうと思っていたソファーは無人で、拍子抜けしながらリビングに足を踏み入れた。


「カンちゃん?」

キョロキョロと部屋を見回すも、そこに人がいる気配はない。

もしかして部屋にいるのかもしれないと、一歩後ろに下がったその時。


「痛っ!! ちょっと、何!?」

背後から頭をベシッと叩かれて、後頭部を押さえながら振り返った。


「あんだけ人を挑発するような暴言吐いといて、連絡もなしに午前様とか。マジでいい御身分ですね」

「ご、ごめんなさい」

後ろに立っていたのは、他でもない完治様。

しかも大変ご立腹のご様子で、私にチョップをくらわせた手をそのままに、超ガンくれていらっしゃる。


「あの、本当にごめんなさい」

「……」

「暴言に関しては、本当に反省してます」

そう言って深々と頭を下げると、少しだけ怒りが治まったらしい完治様がやっとその手を下ろしてくださった。


だけど、納得がいかない点が私にもあるわけで、それはきちんと言わせてもらおうじゃないか。


「でも、午前様に関しては謝らないよ」

「あ?」

「だって、私もう26だし。別にケンカを売るわけじゃないけど、カンちゃんとはただ同居してるだけでしょ?」

「……」

「だから、それを怒られる筋合いはないよ」


瞳をジッと見上げながらそう言うと、カンちゃんはちょっと不服そうに口を尖らせたけれど、すぐに諦めたように溜息を吐いた。


それから、「そうだな」と呟いて私を追い越しリビングのソファーに座り込む。


てゆーか、その体育座り。

「……」

相変わらずのスウェットに、髪の毛が濡れているところを見ると、きっとお風呂に入っていたんだろう。


「水飲む?」

自分の分の水を取りに行ったキッチンからその背中に声をかけると、「おー」と、いつもよりちょっとぶっきらぼうな返事が聞こえ、二本のペットボトルを手にソファーに座った。


「はい」

「どうも」

「カンちゃん?」

「何?」

「篠塚さん、大丈夫だった?」


あのね、カンちゃん。


確かに榊原さんが言っていたみたいに、焦らなくてもいいとは思うんだ。

でも少しずつ、私もカンちゃん離れの努力はしていくから。


私の問いに、少しだけ驚いた様子を見せたカンちゃんは、きっと私の小さな変化に気付いたんだよね?


「……薬飲んで、グーグー寝てたから大丈夫だろ」

「一緒にいてあげたら良かったのに」

「いや、普通に帰ってとか言われたの」

「うわぁ……」


カンちゃんへの気持ちに気づく前と同じように、カンちゃんと篠塚さんの話をたくさんして、

「そっちは? 王子とのデェトは楽しかった?」

「うん。何か帰りのタクシー代まで払ってくれてたみたいで、申し訳なかった」

「さすが王子だな」

「ね。久々に女の子扱いされちゃったもん」

私の話もたくさんして。


そしたらいつか、いろんな事を受け入れて、前に一歩踏み出せる気がするんだ……。


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