スーツを着た悪魔【完結】

愛する覚悟


――――……



鬱蒼とした木々に囲まれた美しイギリス風の洋館。


深青がまゆを連れて行ったのはマンションではなく、幼いころ家族で住んでいた屋敷だった。


一人で生活するには広すぎるので滅多に帰ることはないのだが、住まなくなった今でも定期的に手入れはされている。

豪徳寺の子供たちは、それぞれ鍵を渡されていて、気が向いたときにふらりと屋敷で時間を過ごすこともあった。



「歩けるか?」



深青の問いかけに、まゆは無言で小さくうなずく。

その顔は相変わらず真っ白で生気がない。


あまり悪いようだったら、すぐに医者を呼ぼう……。


そう考えながら、車を降り、まゆの肩を抱いたまま、深青は屋敷のドアの鍵を開ける。

いつも風を通しているので、空気は清浄だ。


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