スーツを着た悪魔【完結】

本当に優しいのは、まゆ、お前だよ。


弱くて小さいのに、たくさん傷つけられてきたのに

それでも誰を恨むわけでもなく、こんな僕にすら「ありがとう」と言う。

それは強い人間の証だ。

お前が持って生まれた、まっすぐな強さだ。



僕はお前が眩しかった。

手に入らないとわかっていたから、なかなか近づけなかった。

けれどそれは言わないでおこう。


こんな顔、見せられたもんじゃない……。



「――ッ……」



やがて、検温にやってきた若い看護師が、悠馬を見て驚いたように声をかける。



「澤田さん、どこか痛みますか?」

「ええ……いや、どこも。検温ですね?」



落ち着いた声で否定し、体温計を受け取る悠馬に、看護師は不思議に思いながらうなずく。

包帯の隙間から覗いて見えたたのは、彼の涙ではなかっただろうか、と。



< 547 / 569 >

この作品をシェア

pagetop