塔の中の魔女
「エカテリーナ?」
初めて名を呼ばれ、エカテリーナはそちらを見あげる。
暖炉の火を受けて、
金色の髪が橙に染まった青年は、困ったように立ち尽くしていた。
「……座ってもよいぞ。
そなたが申す出鱈目は置いておくとしても、久方ぶりの客人じゃ。
なんの用で参ったのか、聞いてやらぬこともない」
はっと青年が表情をあらためた。
先ほどまでの、周囲を見回しては興味に爛々と輝いていたその顔が、険しさを増していく。
エカテリーナは酔って赤く染まった顔で、その様子を眺めていた。
「助けてくれないか、ユダを」
青年は椅子ではなく、エカテリーナの足元に膝をつき、静かに告げた。
「この国は昔、滅びた。
大国の属国となり、王を冠した国と名乗れず、
言われるままに擁立した政権は何度も転覆を繰り返し、民を苦しめてきた。
それが、この百二十年あまりでようやく平和を手に入れた。
そう思っていたのに」
青年の言葉は悲壮で、重みさえあった。
困惑するエカテリーナが耳を傾けてしまうほどの、真実味が。
「なにが起きると言うのじゃ」