塔の中の魔女





青年の心の痛みは理解できた。

同情を抱きもした。


けれど、

エカテリーナはテーブルに置いたまま、

手のつけられていないコーヒーの、立ち上る湯気を見つめる。


「わらわになにができると言うのじゃ……」


青年の肩がピクリと揺れた。


「ユダを助けよとそなたは申すが、わらわにできることなど限られておる。
そして、その中にそなたが望む答えはない」


「それは――」


「結界の張り巡らされたこの塔に王女を幽閉し、婚儀を阻止するか?
なれど、それは大国の怒りを買うことになるのじゃろう?」


「……ああ」


「あるいは誰ぞ身代わりを用意し、王女に仕立てあげて嫁がせるか?」


「――――……」


青年の顔が歪んだのを見て、

エカテリーナの眉が跳ねる。


「……身代わりは、すでに考慮したようじゃな」
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