塔の中の魔女
◇
青年の心の痛みは理解できた。
同情を抱きもした。
けれど、
エカテリーナはテーブルに置いたまま、
手のつけられていないコーヒーの、立ち上る湯気を見つめる。
「わらわになにができると言うのじゃ……」
青年の肩がピクリと揺れた。
「ユダを助けよとそなたは申すが、わらわにできることなど限られておる。
そして、その中にそなたが望む答えはない」
「それは――」
「結界の張り巡らされたこの塔に王女を幽閉し、婚儀を阻止するか?
なれど、それは大国の怒りを買うことになるのじゃろう?」
「……ああ」
「あるいは誰ぞ身代わりを用意し、王女に仕立てあげて嫁がせるか?」
「――――……」
青年の顔が歪んだのを見て、
エカテリーナの眉が跳ねる。
「……身代わりは、すでに考慮したようじゃな」