夢の欠片
「でも一つだけお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」


母にそう言われて、私たちは一瞬身構えた。


いったい何を言われるんだろうかと。


翔吾の緊張も伝わってくる。


「結婚式はしてほしいの

まだお腹が目立たないうちにね?

やっぱり一人娘だし、母親としては花嫁姿を見てみたいから……」


「でも、私たちお金が……」


「ひな!いいから……

わかりました

お母さんの言うことも、もっともだと思うし、なんとかひなのお腹が目立つ前に結婚式を挙げたいと思います」


翔吾はそう言ったけど、はっきりいって、今の時点で結婚式なんて無理だった。


赤ちゃんが生まれた時のために、もう少し広くて綺麗なところに引っ越すつもりでいたし、出産の費用だって結構かかる。


翔吾が結婚式のお金をどう工面するつもりなのか、不安だった。


私は翔吾がいて、赤ちゃんがいてくれたらそれでいいのに……


お母さんの言うことなんか聞かなくていいのに……


そう思って口を開こうとした時、母がフッと笑って何かを差し出した。


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