夢の欠片
「さてと……」


ここに置いてもらってる分、少しは何か役に立たなくちゃ……


溜まっていた洗濯物を洗うために風呂場に向かう。


ボロのアパートの割には、きちんと風呂もトイレもついていたけれど、洗濯機はまだないようだった。


翔吾の無造作に置いてあった作業着をお湯に浸して、石鹸でゴシゴシ洗い始める。


こんなこと、家にいる時にはやったことなかったな……


不満だらけの自分の家だったけれど、掃除も洗濯も食事も、いつでも知らない間に不自由なくされていたことに、今気づいた。


少しだけ母の有り難みを感じる。


だからといって、全てを許せる訳じゃないけれど……


洗濯が終わり、物干し竿に干し終えると、今度は掃除をしようと考えた。


でも当然、掃除機もない。


少しだけ考えて、タオルを濡らすと畳をゴシゴシ拭き始めた。


窓もキレイに拭くと、部屋全体を見回す。


見た目はあんまり変わらないけれど、何となく埃っぽかった部屋が、さっぱりと気持ちよく感じた。


うん!とりあえずこれでいっかな……


少しだけ翔吾に恩返し出来た気がしてなんだか嬉しくなる。


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