昔の風
2
 このままうまくいけばいい。

 あの頃、俺は誰よりも勝っていると思っていた。結婚をし、子供を二人もうけ、マイホームも建てた。家庭という安定を築き、美春という刺激を手に入れたからだ。

 美春のことは好きだった。しかし、妻と離婚するつもりはなかった。が、かと言って美春とも別れたくない。

 美春に男ができても、このままの関係を続けていけたらいいとさえ思っていた。こんな男を最低だと言う人がたくさんいることはわかっていたが、やめることはできなかった。


 
 二年前に俺と美春が座った席には若い男女が二人座っている。俺はその席から二つあけた席で一人酒を飲んだ。個室の方ではそれぞれが盛り上がり、俺のことを気にしている奴もいないだろうと酒を口に流したとき、肩を叩かれた。

「お邪魔しまーす」

 そう言って隣に座ってきたのは森山だった。

「また邪魔しにきたのか」

「へへへ」そう笑う森山は少し酔っ払っているようだ。

「金子さんどうして一人で飲んでるんですか」

「あぁ、暑かったからな」適当に答えた。

「豆腐も食べてないみたいだし」

「そうか?ちゃんと食べてるよ」
 
 そうかなぁと言って首を傾げる森山にこれ以上突っ込まれると全てを話してしまいそうだ。話題を変えることにした。


 
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