紅蓮の鬼外伝


「イーヤー!!!帰らさせてください!!!」りんが滝壺で叫んでいる。


「ダーメ。りんはまだ火、灯せないでしょ?」


さっきの何かに憑かれていたユキ兄はおらず、いつもの口調で言う。


「もう火くらい灯せますもん」


りんがプウと頬を膨らました。


そんな彼女を見て、少し頬を緩める。


――子供だなぁ


当たり前っちゃ当たり前のことなのだが、俺はそう思わざるを得なかった。


「その場で灯せんのか?」


ドバドバと高い位置から水がりんの体を叩きつける。


「で、出来ますもん!」


りんは噛みつくようにそう言い、すぐにプイッとユキ兄から目を逸らした。


「……………」


そして彼女は諦めたかのように乱暴に息を吐いて、その小さな手の上に橙の火を灯す。


あの年で水が降ってくる中、火を灯せるというのはやはり長の娘だということか。


俺は少し納得した。



< 66 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop